猫の脱走と迷子のインコ
X(旧Twitter)などのSNSを見ていると、迷子のペットを探している投稿が連日流れてくる。
実を言うと、私ももう何年も前に愛猫を脱走させてしまい、11日間も探し回ったことがあった。
当時は共働きだったため、昼間は探すことができず、毎日早朝と夕方と夜中に近所を探して歩き回った。
夫婦そろって、当然寝不足で疲労困憊だ。
しかし、肉体の疲労よりもメンタルのほうが断然キツく、会社で仕事をしている間も愛猫のことが頭から離れなくて、生きた心地のしない11日間だった。
そこは野良猫の多い地域だったこともあり、臆病だったうちの子は、とある場所に隠れたままずっと潜伏していたようだ。
それを早めに突き止められたため、ご飯を置いてあげることができ、なんとか飢えを凌げたのは幸いだった。ただ狭い場所だったので、捕獲器などの罠が設置できなかった。今思えば、そのせいで捕獲が遅れたと言っていい。
最終的に、主人がそこを見に行った際に、タイミングよく姿を現してくれ、ご飯を食べさせて油断したところを捕まえた。
外での生活に怯え、混乱していた愛猫は、帰ってからしばらく鳴きまくっていた。
いくつか好物を与えていると、ようやく安心したのか落ち着いてくれ、お風呂に入れて乾かした直後に、突然『カクッ…』と寝てしまった。
相当疲れていたのだと思う。もともと野良猫だったのを保護したので、外での生活を知らなかったわけではない。けれど、家で至れり尽くせりの生活を送っているうちに、すっかり野生が抜けたのだ。
完全な箱入り娘と化したところへ、いきなり過酷な状況に放り出され、どれだけ不安だっただろう。緊張のあまり、ほとんど眠れていなかったのではなかろうか。
死んだように眠る愛猫の様子から、11日間の苦労が感じられて、申し訳なくて涙が溢れてきた。
同時に、帰ってきてくれた嬉しさももちろんあった。
夜中に何度も、隣で眠る愛猫を撫でてはポロポロと涙を流す…といったことを繰り返し、一睡もできなかったのを今も覚えている。
そしてその翌日、愛猫の捜索に充てようと、私はもともと有給をとっていた。
けれどもう探す必要はなくなったため、溜まっていた家事をしながら、一日中愛猫と一緒にいることにした。
愛猫はずっと寝ており、時折ハッと目をさましては、「ニャア〜」と呼んでくる。
それはまるで、『ママ、ちゃんといる?』と、私の存在を確認しているかのようだった。
呼ばれるたび、すぐそばに寄って、
「大丈夫だよ〜。もう安心だよ〜」
と言いながら撫でてやる。
するとまた眠りに落ち、しばらくすると鳴いて呼んでくるの繰り返しだ。それがなんだか、とってもいじらしく感じられて、胸がぎゅう〜っと締めつけられるほど愛おしく、たまらなくなってまた涙が出た。
*
あれ以来、我が家は猫の脱走に対してとても神経質になっており、玄関にはもちろん、家じゅうの窓という窓に脱走防止柵が取りつけてある。
今いる猫の一匹を保健所からもらい受ける際、家の環境の確認に来た保健所の人に、参考にすると言って写真を撮られたほど厳重だ。
ペットの脱走は、飼い主が悲惨なのはもちろん、当のペットはもっと悲惨である。
なのでくれぐれも注意してほしい。
そして、今現在迷子になっている子は、一秒でも早くおうちに帰れますようにと祈らずにいられない。
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ペットの脱走にまつわる話は、もうひとつある。
これはうちの猫のことではなく、よその子の話だ。
確か2年前ぐらいのこと。主人が仕事から帰ってくるなり、
「ごめん、インコ拾っちゃった!」
と言ってきた。
ウチでは当然、鳥は飼えない。鳥籠に入れたとしても、猫が外から攻撃するに決まっている。そんなストレス下で飼育したら、早く死なせてしまうこと間違いない。
なので「うちではムリだよ」と、即答したのだが、保護したのをまた放すわけにいかなかった。野生のインコなんて日本にいるはずがなく、確実にどこかの家から逃げてきた子だ。外で生活なんてできやしない。
とりあえず、猫用のキャリーに入れて別室に隔離し、主人とどうするかを話し合った。
迷子鳥の飼い主は、探すのが難しい。相当遠くから逃げてきた可能性もあるからだ。
エリアを絞れるならまだ探しやすいが、上記の場合は、無数にある迷子情報の中から該当するものを探し出さねばならない。さすがに無理じゃないかと思う。
ならば、主人の実家に飼ってもらってはどうか? という話になった。
ちょうどその少し前に、義母が可愛がっていたインコが亡くなったばかりだったのだ。
でもやっぱり、その前に一応、飼い主探しをしてあげないといけない。
なのでダメ元で、迷子鳥の掲示板のサイトを開いたら、なんと一番上に保護したインコにそっくりな写真が出ているではないか。
インコというのはどれも似ているように見えるが、ウチで保護した子は、真っ白で、頭にリーゼントみたいな毛の塊がある珍しいタイプだった。それで、似ているとすぐわかったのだ。
しかも飼い主さんの住所は、うちから車で10分もかからない場所である。これは間違いないのではと思い、すぐに連絡したらビンゴだった。
聞けば、脱走したのは2日前。
なかなか見つからないので、ご友人に相談なさったところ、SNSやネットの掲示板に情報を載せるべきだと言われたそうだ。そして、掲載してわずか1時間後に私がそのサイトを見たため、一番上に表示されたのだった。
なんてナイスなタイミングだろう。
もっと早くに掲載されていたら、情報が埋もれて探し出せなかっかもしれない。そうなると、私たちはインコを義母のところへ持っていったはずだ。
(※後で聞いたところ、迷子鳥を拾った場合、勝手に自分のものにはせず、警察に届け たほうがいいらしい。
けどまあ、今回はすぐに飼い主が見つかったからよいだろう。)
飼い主さんは、泣いて喜んでおられた。
私たちも経験があるから、気持ちはものすごくわかった。
聞けば、そのインコはアルビノで、直射日光に弱いらしい。
インコは1日でもエサを食べられなければ死ぬと聞くが、そんな虚弱体質でよく2日も生きていたなと驚いた。
きっと神様のような、見えない力が導いてくれたのだろう。
あの後、おうちでたっぷりご飯を食べて、心地よく眠ったんだろうなと思う。本当によかった。
そして。
この話には続きがある。
私と主人は、思いがけない善行に、この後めちゃくちゃ気分がよくなった。
あまりにもテンションが上がりすぎて、江原啓之さんの『おとがたり』というラジオにこのエピソードを投稿したところ、なんと読んでもらえたのだ!
江原さんの柔らかな声で、この話を語ってもらえてさらに癒やされた。
今でも、あのときのいい気分は、思い出すとふわあっと蘇り、胸のあたりを温かくしてくれる。
主人とも、あれは素敵な経験だったねぇと、今でも時々話題に出す。
しかしだ。
私はもちろん、どの飼い主さんも、ペットの脱走というのは、やはり一生経験せずに済むものであってほしいと思うのである。
冗談抜きで寿命が縮むので、犬も猫も鳥もハムスターも、どうか脱走防止には、くれぐれもお気をつけいただきたい。
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愛猫ちゅらちゃん。11日間もの逃走劇を繰り広げてくれた。